4月16日に新経済連盟主催のNew Economic Summit2013に午前中だけという限られた時間だけ参加してきましたが非常に刺激的でした。何が刺激的だったかというと、確実に時代は変わりつつある、ということを肌身で感じられたからです。
▼After Internet時代のイノベーションはカオス分散型
MITメディアラボ所長 伊藤譲一氏は、今の世界の変化について以下のように語ります。
「イノベーションをするためにはクリエイティビティが重要です。昨今一番大きくイノベーションに影響を与えたのはインターネット。
Before Internet(BI)はゆっくり動いていて経済学者の予測はあった。ルールを守れる人が大切だった。しかしながら、After Internet(AI)はルールというのは小さなことであることがわかった。基本的に予測不可能になってきた。
BIはインフラ創りが基本で中央集権型のイノベーション、ただ、AIはカオス型分散型。これをインターネットがプッシュした。日本人はカオス型に弱く、秩序付き。
多くのベンチャーがインターネット領域に入ることで、スピードが上がり、世界的に参加する人も増えた。ムーアの法則もある。そして、ソフトウェアを創るコストが劇的に下がった。AIは技術中心のイノベーションとなってきている。巨額のお金がなくてもエッジからイノベーションを起こすことができる。」
インターネットによってカオス分散型のイノベーションが当たり前になってきていると言います。その中で、鍵になるのがクリエイティビティを持つ個人。
ツイッターの創設者であるジャック・ドーシーは新たな決済サービスSquareを共同創設者と“Make Commerce Easy”というコンセプトに基づきながら、議論し協働しながら創り上げていった、とも語っていました。アイディアを持つ個人が新しい価値を創り上げていく。そして、それをスピーディーに展開できる時代に入ってきたということなのでしょう。
ちなみに生ジャック・ドーシーを初めて見ましたが、かっこいいーとため息が出てしまう佇まいでした。(^^)
▼ハードウェアのイノベーション環境も変化していく
さらに伊藤氏はソフトウェアのみならずハードウェアについても大きな変革の流れを語ります。
「オープンハードウェアという取り組みも起きている。ハードでも家電でも製造コストが下がってきている。今後ハードウェアも必ず劇的にコストが安くなり、簡単にプロトタイピングができる。バイオも同じ。
日本ってモノづくりの日本って言われる。ただ、あまりにも大きな仮説とプランに基づいて大企業型で動き始めると破壊的な動きっていうのはできない。
メディアラボでは何にでも使っていいというお金をもらう。他の研究所にできないこと、世の中にインパクトをもたらすこと、マジカルなこと。それらの軸で評価する。MITメディアラボでは基本的な方向性は決めるが、細かいところは動きながら決めていく。
中央集権型では正しいことをやることが必要。でも、今の時代は、権威を疑い、常識を疑い、人が考えないようなことを考え、動きながら考えていくことが重要。
パーミッションレスソサエティができないと、破壊的イノベーションが起きない。」
ハードの世界もソフト同様の変化が起こりつつあるのは事実でしょう。日本を見ても、株式会社Cerevoのような家電ベンチャーが出てきています。Cerevo代表取締役岩佐琢磨氏は以前講演会で「ベンチャーであったとしても協力会社と連携すればコストを下げ、良い製品を創り出すことは可能。また、今はそれを世界にプロモーションし販売することもできる仕組みが整ってきている。」という趣旨のことを語っていました。
▼ 事業計画のないマネジメント
また、マネジメントの在り方もインターネット産業では大きく変わってきていることも垣間見れました。
例えば、LINE株式会社代表取締役社長森川亮氏は「事業計画は作らない」と言います。
「事業計画を作らないでやっている。日本人は計画を創るとその変更の理由を説明しなければならない。戦略も目標もあえて発表しない。
みんなもやもやする。その中で、何かやらないとまずいという空気がうまれ新しいチャレンジに向かう。
インターネットは変化が激しいので、変化に対応し、今求められていることをやることが大切。」
唸らされます。計画は作るモノ、戦略も立案し社員に説明するモノ、という固定概念を大胆に壊してくれます。(^^)
AIの時代の中で、ツイッターやフェイスブックよりも速い成長を実現できているのは、サービスそのものの革新性もあるのですが、経営の革新性も大きな位置を占めるのでしょう。マネジメントのパラダイムもインターネットによってこれから大きく変わっていくことでしょう。
以前から経営も変化しなければならないと問題提起し続けているのはゲーリー・ハメルです。「経営の未来」という書籍では、「今日の経営管理慣行の多くが、 1世代もしくは2世代前に企業の営みを律していたものと ほとんど変わっていないことに気づくだろう。」と揶揄しながら語っています。彼の近著「経営は何をすべきか」の一節を少し長いが紹介したいと思います。
「今日の社会では大規模な組織が幅を利かせている。私たちは消費者としてそれらの組織を頼り、従業員として労働を提供し、投資家として依存している。ところが、往々にして失望させられたりするように思う。消費者としては冷淡な対応や、サービスよりも効率を優先するルールや方針のしわ寄せを受けることが少なくない。従業員としては、意見をたびたび無視され、創造的な熱意を無駄にされる。その上、さけようのない危機が起きると、不釣り合いなほど大きなコストを背負うように求められる。(中略)
黎明期のマネジメントを革新した人物たちと同じく、私たちも夢を持てばよい。人類の置かれた状況の改善を絶えず心待ちにし、あらゆる事業機会に飛びつく、そんな組織を夢見ればよい。変革への熱意がいたるところにはっきりとみなぎっていて、官僚主義などものともしない使命感に燃える人々が未来を切り開こうと気勢をあげる、そんな組織を夢見てもよい。恐れを知らない反逆者が常に臆病な反動主義者をやっつけ、未来の支持者が常に過去の支持者を打ち負かす、そんな組織を夢見てもよい。起死回生の痛みなしに再生を果たす組織を夢見てもよい。勇気、創意工夫、固い決意があれば、このような組織は築ける。これがいま重要なことである。」
世界は変わりつつある中で、経営の在り方も変化する機会の窓が開いてきているのではないでしょうか。
▼Agilityの重要性
では、そういう時代の鍵は何か。多くの経営者が語っていたのは「Agility」です。変化に対峙し機敏に動ける力ということでしょう。
google上級副社長であり、Androidの生みの親のアンディー・ルービンは「市場が変化するのでそれに対応し変わらなければならない」と言います。Androidも最初はデジカメ向けプラットフォームとして開発していたそうですが、「OSのコストは右肩下がりと予測できた。また、オープンな領域、Multemediaに対応できるOSがなかったので、ここにアンドロイドをポジショニングした。」そうです。
その際の大胆な動きとしてユニークなのは、事業をリポジショニングするだけではなく、経営チームも大幅に入れ替え、経営チームもリデザインしてしまうのです。この決断まで5ヵ月という短期間でした。そして、それがスイートスポットにはまり、成長につながります。
まさに「Agility」の重要性を示す出来事でしょう。
カオス分散型イノベーション、事業計画のないマネジメント、Agility、学びの多いい刺激的なサミットでした。(^^)
cloudforceの特別セッションは、マーク・ベニオフ氏とトヨタ自動車 取締役社長 豊田章男氏、前アメリカ国務長官 コリン・パウエル氏の対談でした。
豊田章男氏の発言に注目していたのですが、とても勉強になりました。いくつか印象的な言葉を書いておきたいと思います。
・就任以来、赤字続きで品質問題もあり、社長は謝罪の”謝長”だった。でもいつか感謝の謝長を目指したい。
・品質問題でアメリカの公聴会に登壇することとなった。その際に社長としての役割は「決めること」と「責任を取ること」であると悟った。
・次世代の経営者を育てるということでは、この「決めること」と「責任を取ること」を体を持って教えたい。
・私はどちらかと言えば直観で意思決定するタイプ。ただ、3秒で決めるとしても安易に決めてはいけない。その3秒に至る前にどこまで深くその決断で傷つくことがある人、苦労することのある人のことを考えたのかが問われる。
・情報が氾濫する世の中で社員が価値観を合わせていくことが大切。価値観をしっかりと教育しなければならない。
・車は「走る、止まる、曲がる」の機能に加えて「つながる」という機能を持たせていきたい。あたかもiPhoneに四つのタイヤがついたというようなことを目指していきたい。
品質問題の中で社長という立場で苦悩をし自らの役割を「決めること」、「責任を取ること」と覚悟を固めたという話を聞き、身震いをしてしまいました。
距離にして約30-40mぐらい離れたところから話を聞いていたのですが、豊田章男さんからほとばしるエネルギーを感じました。
この対談の模様はセールスフォースのWebでも見れるので、ご興味のある方はご覧ください。
cloudforceでマーク・ベニオフ氏の基調講演の後、急ぎでランチを取って、12:30から始まる「クラウドで起業!」というセッションに少し遅れて参加してきました。パネリストは以下の方々。
================================
パネリスト:
(株)グロービス・キャピタル・パートナーズ マネージング・パートナー 仮屋薗 聡一氏
(株)ホットリンク 代表取締役CEO 内山 幸樹氏
(株)チームスピリット 代表取締役 荻島 浩司氏
セールスフォース・ドットコム コーポレートディベロプメント &ストラテジ-担当
シニアバイスプレジデント ジョン ソマージェイ氏
==================================
セールスフォースはコーポレートベンチャーキャピタルとして積極的にクラウドサービス系の企業に対して投資をしています。その代表例がホットリンクやチームスピリットです。
印象的な言葉があったので以下にメモ。
デザインカンパニーのIDEOのワークショップに参加してきました。これはIMPACT Japanという団体が主催しているGlobal Entrepreneurship Weekの一貫で実施されたものです。ワークショップには約20名ほど、デザイン会社の方、広告業の方、大学教授、学生等、幅広いバックグラウンドの方々が集まっていました。講師は、IDEO JapanでBrand Specialistとして活躍されている田仲さん。
以下に「IDEOデザインプロセス」、「ナレッジマネジメント」、「その他発見」という形で報告をまとめました。
▼IDEOデザインプロセス
お話をいただいたのは、デザインプロセスです。彼らには基本的にInspiration/Strategy/Ideationという3つのプロセスがあるそうです。実際のプロジェクトにおいてはそれぞれのフェーズを約1ヶ月ぐらいかけ、合計3ヶ月でプロジェクトを完遂させるそうです。
Inspirationのフェーズでは徹底的に観察することが重要。予見を持たずBehaviorを観る。そして、そこで面白い発見がないかを探索していくそうです。ちなみにBehaviorという言葉は“行動”と翻訳すると危険だと思っているという話がありました。英語のBehaviorの語感には行動だけではなく、行動を取った本人の動機、また、その行動を取った背景や環境も含めるが、行動観察と言ってしまうとActionだけを追いかけるような意味合いで捉えらるので危険だと言っていまいた。田仲さんは“意識と実態”と訳しているとのこと。
また、このフェーズでIDEOではクライアントも巻き込むそうです。例えば、顧客インタビューにもIDEOのデザイナー2人とクライアントの人1名で同行したりする。そして、そこで具体的な役割をお願いしてプロジェクトにガンガン巻き込み、クライアントとのチームビルディングをしていくそうです。
StrategyのフェーズはInspirationフェーズで見えてきた面白いことを様々な角度から組み合わせ、合成(Synthesis)していくプロセスだとのこと。ブレストを繰り返しながら発想を広げていきながら面白い意味合いを考えていくそうです。例えば、新しい手術室のデザインを考えるというプロジェクトでは、F1のピットの見学に行き、学習できることはないか、組み合わせると面白いことはないか、ということの発想を広げていくような営みを行ったりするそうです。そして、このStrategyフェーズでこういったものを創ったら新しい、面白いという意味合いを紡ぎ出すことを目指すそうです。
そして、Ideationのフェーズに入ります。ここでもブレインストーミングは行いますが、カギとなるのはプロトタイプを創るということです。「机に座って考える」よりも「手を動かしながら考える」ことの方が良いという考え方に則り、プロトタイピングが重視されています。例えば、エアニュージーランドのプロジェクトでは飛行機の機内を創ってしまい、そこから発想を広げるようなことをやっています。ちなみに、完成されたデザインは、エコノミークラスは席が空いていれば横に快適に寝れるようにし、ビジネスクラスは席の角度を自由に変更でき、横の人と向かい合ってミーティングができるようになっているそうです。
ただ、デザインプロセスの3つを丁寧に踏みましょう、というスタンスではなく、自由に行き来しながらアイディアを練り上げていくということでした。また、この3つのプロセスもIDEO全体で完全に共有化されているのではなく、他の人に聞けば似たような違うプロセスを語るぐらい幅が広いと言っていました。
▼IDEOのナレッジマネジメント
IDEOの組織に関していくつか教えていただきました。というのもIDEO自身は600名近いスタッフを抱えるまでになり、組織としてどのようにIDEAを出し続けらる組織であるかというのが非常に重要なテーマになっているそうです。ちなみに、グロービスでもIDEOのケースを使っていて90年代後半が舞台なのですが、ケースの記述によると300名となっています。従い、10年で2倍に増加しているのですね。
工夫をしている一つはナレッジマネジメント。面白ネタ共有が一つです。全社員が入っているメーリングリストがあり、そこに面白いことがあったらとにかくアップするという文化になっているそうです。例えば、日本に来たアメリカのスタッフが「キットカットって日本では「きっと勝つ」っていうコンセプトで受験生が買ったり、贈りあったりしてるんだって!」というような個人的な発見をアップします。日本人からすると当たり前のことでも“面白い”と感じた人がメーリングリストにアップして他の人が反応する、そんなことが繰り返されているそうです。
ただ、こういったフローの情報だけでは追いつけない場合もあるということで、写真もアップできる社内ブログ“the Tube”を自社開発したそうです。これは今で言うフェイスブックのような機能で非常に手軽に写真や動画、テキストを共有できるそうです。ここでストック情報を蓄積しているそうです。
また、社員のプロフィールやこれまでのプロジェクト実績が検索できるシステムもあり、困ったことがあるとそこで検索してエキスパートや経験者に聞くということが当たり前に行っているそうです。もちろん、国境の壁なく回しているそうです。
それ以外にも、ハロウィーン等のイベントでは、誰が最もユニークなかぼちゃを創れるかコンテスト等の業務外のイベントも行われていて、そういったところで楽しむことをしているそう。いかにクライアントワーク以外に投じる時間を増やすかというのが課題でもあると言っていました。そうでないと、アイディアが枯渇してしまうからということです。
・The Tubeが紹介されていたWebがありましたのでリンクを共有します。
▼その他発見
上記以外にも面白い学びがたくさんありました。
・プロダクトデザインとサービスデザインで違いがありますか?と質問したのですが、「違いはありません。なぜならどちらも経験をデザインすればよいからです。」という回答は目から鱗でした。
・また、スーパースターデザイナーがいるというスタイルではなく、多様なバックグラウンドのT型人材(一つの領域のエキスパート(例えば建築、グラフィック、コミュニケーション等など)であり、かつ、横串をバランスよく持つような人材)がチームワークを用いてデザインするスタイルをIDEOは取っているそうです。これは井上の想像ですが、中期的には組織的なアプローチの方が良い価値を実現できるのでは、と感じました。IDEO創業者はスターデザイナーですが、IDEOがあえて、そのスターに支えられたモデルを取らなかったことをもう少し突っ込んで聞きたかったです。
・IDEO.orgという取り組みを実施しているそうです。IDEOのイノベーション手法を世界の社会問題の解決に使えないかということで取り組んでいるプロジェクトです。IDEOのブランド価値を高めることにも寄与するでしょうし、スタッフのリテインにも効くのでしょうね。
・組織は“村”のような雰囲気だそうです。つまり、みんな良く知っていて仲が良いとのこと。採用はその村の仲間に入れていいような“いいやつ”かどうかを観るそうです。もちろん、スキルも見るそうですが。
報告は以上です!
▼ダボス中東からの学び:中東のビジネス事情
・中東はビジネスを語る前に政治を語れなければならない
言わずもがなですが、この地域は経済成長を語る前にPoliticalな課題が極めて重要です。今回のMeetingでも、セッションの多くが政治的な議論が多かったことは中東の特徴的なことなのではないかと思います。
特に、皆さんもご存じの通り、中東はアラブの春という民主化の動きが吹き荒れています。図らずもその最中でのWEFということになり、歴史の中の一ページにいるということを感じさせられました。
WEF開催の前日にはカダフィの死が報道され、WEFの翌々日にはチュニジアで初の選挙が行われる、まさにそのタイミングで各国の国政のトップが集い、Politicalな側面から議論がされています。
私なりの解釈は、中東における民主化の流れは止められない、その中で若者のエネルギーになりうるが、そのエネルギーを束ね、まとめ上げるフェアなリーダーの存在を持てるかどうかが国の今後の明暗を分けるであろう、ということです。
・雇用創出のために起業家を生み出せるか、その中で教育がカギ
一方で、地域としての大きな課題は非石油分野のビジネスを拡大し、地域における雇用を生み出さねばならない、ということです。今回のMeetingもまさにその点が議論の中心となっています。特に若年層の失業問題は深刻で25%を超えており、日本とは違い国の人口ピラミッドでは若い層ほど多い傾向になっており、今後8500万人分の雇用を生み出していくことが必要になっています。
その中で、盛んに議論されていたのはEntrepreneurshipです。実は多くの国民は企業ではなく官僚になりたがる傾向が強いそうです。しかし、起業家が増え雇用が生み出さない限り、若年層の失業問題は解決しないのは明白です。ただ、残念ながらそれを支える教育が十分整っていないということが叫ばれていました。
INSEADは数年前にドバイにキャンパスを設けています。グロービスもいずれ中東に出ていくということもあるかもしれませんね。
▼ダボス中東からの学び:自己成長に向けて
リーダーとして世界観を持つことの大切さを改めて感じさせられました。実際にWEFで会ったリーダーの方々と触れ、語り合い、世界観が非常に広い方もお見かけしました。特にパネリストの中で優れた意見を述べられる方は、見えている世界が非常に広く、その世界的な動きの中で個別のイシューを位置付けて語ることができます。
また、個としての存在感を持っている人、というのは周囲を引きつけます。その存在感はポジションパワーによるところもありますが、パネリストの中で聴衆を本当の意味でひきつける人というのはそのポジションパワーを超えた、個としての存在感を持っています。
その存在感はどこから来るのか、おそらくその方の哲学・価値観と、それらに基づいた経験の掛け算だと思います。それらが哲学・価値観が深ければ深いほど、また、密度の濃い経験を積み上げられることができていればいるほど、存在感が増していくのだと思います。
これらの世界観、存在感を持つこと、これが世界のリーダーに伍していく土台となるのでしょう。
World Economic Forumの中東地域会議は終わりましたが、ヨルダンの旅はまだ終わりません(ここからはお休み扱いです)。WEFが行われた死海をあとにし、ヨルダンに来たのでどうしても見ておきたい場所、Petraに向かいました。ぺトラは紀元前から文明が存在していましたがその後12世紀から約600年間忘れられた遺跡になっていた場所です。
死海から車を飛ばして約3時間。途中いくつか遺跡に立ちよりながら、乾いた砂漠の道をドライブです。Petraまで少しのところで遅いランチ。こちらに来て助かるのは食事がとてもおいしいことです。以前訪れたギリシャと同じような食事で野菜や果物がとてもおいしいです。
その後、ホテルにチェックインしました。今日は時間も限られているので、ぺトラの入り口のホテルでゆっくりと過ごします。そして、翌日、ぺトラに向かいました。インディ―ジョーンズの映画の舞台にもなったので記憶にある方も多いかもしれません。
岩と岩に囲まれた道をずっと歩いていくと、目の前に宮殿が飛び込んできます。35mにもなる巨大な宮殿です。そして、その宮殿からさらに奥に入っていくと本当に言葉を失う景色が広がっています。乾いた大地、その中に突如現れる遺跡。結局、Petraの頂上まで約3時間ほどかけて歩き、頂上近くの宮殿の前でお昼としました。
すると、どこかで見たことのある顔が。なんとWEFのレセプションで仏教について語り合った中国人がいました。奥様と一緒に来ているということで少し雑談をし握手をして別れました。
ぺトラに来て世界の広さを知り、また、自分の小ささを思い知らされます。そして、この乾いた大地に宮殿を創った人間たちに想いを馳せます。きっと命を燃やし創ったのでしょう。このような場に来ると、自分の小ささを思い知らされ謙虚になると同時に、この場を創るために命をかけた人の存在を思うと、彼らと同じように自己の生命を最大限燃やすことができているか、ということを考えさせられます。
この場に来れたことに感謝です。
(Twitterに加筆・修正)
■WEF中東2日目
死海に来たので一度は”浮かびたい”と思い朝一でビーチに向かいました。日が出てまだ1時間少しでしたがそれほど冷たくなくプカプカ浮かびました。人生二度めの経験です。一度目は18年前イスラエルのビーチで、そして今回はヨルダン側から。対岸にイスラエルが見えます。ただ、朝なので周囲に誰もいなくて写真が取れなかったのが残念でした。
9時からのセッションはドイツ人と何を選ぶ?なんて話をしながら会場に向かっていました。このドイツ人は高田馬場を正確に発音できて面白い人でした。
9時からはなんと5つのセッションが同時進行なのです。するとオーラのある笑顔が飛び込んできました。なんとトニー・ブレアです!
トニー・ブレアの出ているセッションは「2012年のアラブの動向」。トニー・ブレアは、歴史的な視点から民主主義を語り、それがアラブの春に繋がっている、そして、民主主義の母である英国人の視点から語ると、、という展開で非常にうまいです。また、この「アラブの春」という変化は止めることができない、いずれイランも続くだろうということを言っています。
また、内容以上に話し方が本当に素晴らしい。真似るべき話し方です。まず笑顔。常ににこやかに爽やかに語ります。ただ、ここは重要というポイントは非常に引き締まった表情で語る。表情で抑揚を付けています。また、身振り手振りや、聴衆へのアイコンタクト等、見習うべきところが多数ありました。
そのセッションを終えて、ネットワーキングの時間があり立ち話をしていると場が一瞬騒然としました。振り返るとなんとヨルダンクイーンラーニアがいらっしゃいました。お子様が4人いらっしゃるのですが、それを感じさせない美しさです。
クイーンラーニアのスピーチは日本にいる際にも英語の勉強のため何度も聞いていていました。それだけに勝手に知り合いになった気分になっています。スピーチの内容は知性と人間への優しさ・愛情を感じさせられいつも惹き込まれます。
そのまま会場に入って行かれます。クイーンラーニアが参加されるセッションがあるためです。私も連れられて会場んへ。クイーンラーニアのスピーチでは中東のjob Creationのためには国民の起業家としての力を高めていかねばならず、そのためにも教育の重要性が語られました。実際に拝見をするとにじみ出すオーラを感じさせる方です。誰もが彼女のファンになってしまうのではないでしょうか。
午後は「アメリカとアラブ」というセッションです。ジョン・マケインアリゾナ州知事のスピーチでしたが、アメリカとの関係を強化すればこの地域は良くなるという極めて上から目線の内容で好きになれません。となりのモロッコ人の女性も失笑をしていました。
しかし考えてみるとWEF中東にアメリカの政治家、しかも大統領選を戦うような力のある政治家が来ていること自体がすごいことなのだと考えるに至ります。それだけアメリカにとっても重要な地域ということでしょう。つい先日もオバマがイラクからの米軍の撤退について宣言していましたが、アメリカにとって地政学的に重要な地域と認識されているのでしょう。
翻って日本はどうなのでしょう?我々の輸入する石油のうち70%以上は中東に支えられています。脱原発という政策に転換する以上、石油資源を持つ中東の重要性は今後これまで以上に高まっていくでしょう。しかしながら、日本からの参加者は2人だけでした。寂しいですね。
「アメリカとアラブ」の次に行われたのはKlausとリビアのJibril氏の対話です。カダフィの死もあり、リビアに大き注目が集まっているからでしょう。One to Oneのセッションです。
Jibril氏が過去6ヶ月のリビアにおける革命の中で感じたことは、若者のパワーだったそうです。カダフィ-政権との戦いの最中、カダフィ-政権側に情勢が傾くことがあり、停戦を申し入れようという議論になったそうです。しかし、それを留まらせたのは若い世代の活動家だったそうです。政権をひっくり返さなければ何も変わらないということを若い世代は言い、リビアの首都トリポリで駆け回ったそうです。
だからこそ、Jibril氏はこれからのリビアの国づくりの中で若い世代にイニシアチブを持ってもらうようにしていくことが重要であると主張されます。これからの国を支える若者のニーズを聞き、国づくりをしていくことが大切だとおっしゃっていました。
考えてみれば、リビアや中東各国で今まさに起きていることは、日本で言えば明治維新なのだと思います。変わらねばならないという強い決意を持った若者が国を変えるというのは革命においては共通項なのかもしれません。翻って企業変革はどうなのでしょうね。そんなことを考えさせられる対談でした。
その後、Entrepreneurship imperativeというセッションに参加しました。ここでも起業家、政府関係者は教育が企業側のニーズにマッチしていないかということが語られています。起業家の一人は、大学で教えている教授はずっと20年間同じことを教えている。ビジネスの現場についても全く知らない。そのような状態で今の変化の激しい環境には対応できない、と断言しています。
ぜひグロービスの取り組み、つまり、PhDではなく実務経験を持ったファカルティがほとんどを占める、ということを一つのExampleとして紹介したかったのですが、あてられず発言できませんでした。残念。
ただ、クイーンラーニア同様、中東での教育の劣化(というか環境変化への不適合)は非常に大きな問題というのは明確ですね。
そして、Action Plan for 2012というセッションがありました。要するに、いろいろと議論しましたがこれから何をしますか?ということを議論するセッションです。
その中で印象的だったのはエジプトでHuman Rights Watchで働く女性の言葉です。彼女は「これからアラブは自由の為に長い戦いになると思います。その中で私は戦い続けます。皆さんも希望を持って戦い続けましょう!」と話していました。おそらく、参加したアラブの人たちには非常に響く言葉だったのではないでしょうか。
ちなみに彼女はGlobal ShaperというWEFの新たなイニシアチブに選ばれた女性です。Global ShaperはKlausがYoung Global Leaderとの会議に出ているとほとんどが40前後で全然若くないということに気付き、20代の焦点を当てたプログラムだそうです。20代の優秀な活動家を集めてネットワークを図る新たなプロジェクトです。今、世界の人口の50%は27歳以下だそうです。高齢化社会にある日本にいるとそういった事実を肌身を通じて感じることはできませんよね。世界は変化していますね。
そして、最後は国王が再度いらっしゃり、中東で人道的な活動をしている若者への表彰をされ、クロージングです。Farewell Receptionがあり、軽食を取りながら、知り合いになった方、何人かと握手をして回りました。おそらく、この2日間で話をした人は70-80人だと思います。もちろん、薄い挨拶だけだった人もいますが、結構じっくりと話し合える人もいました。この2日間で友達ネットワークが少しでも増えたとすると来た甲斐があったということだと思います。
(Twitterに加筆・修正)
■WEF 中東 セッション初日
初日の最初はKlausによる「Forum Vision」というセッションに参加しました。Alausから直接WEFの成り立ち等が説明されます。朝食を食べながらということで入りやすい雰囲気でしたので質問するチャンスがあり手を挙げました。「WEFの具体的な目標はありますか?」と質問をすると丁寧に答えてくれます。一つはどれぐらい参加する会員が増えているかというのを観ているそうです。特に離脱するキーパーソンがいないかということは重視しているとのこと。また、WEFがどれぐらいMedia等にリファーされたか、ということも重要な指標になっているということでした。
その後Klausに挨拶をし、日本のGlobisに所属しています。Yoshito Horiはご存じですか?と質問をすると、Yoshitoは知っているよ、とにこやかに回答。堀さん、さすがです。
今回のダボス中東のテーマはEconomic Growth and Job Creation in the Arab Worldです。湾岸協力会議GCC6カ国及び中東及び北アフリカ18カ国)の人口は2030年までに7億人弱となり、現在と比較して1.5倍になると予測されています。しかしながら深刻な失業率に悩まされています。特に若年層の失業率は25%を超え、地域別の比較で世界で最悪です。
若年層の失業率という問題は現在は日本も含め世界各国で大きな問題になっています。昨今の欧州危機の影響もありスペインで40%を超える若年層の失業率になっているという報道もあります。
その不満が「アラブの春」と言われる革命を引き起こしたトリガーの一つと語られています。
最初のパネルディスカッション「Arab World Update: Growth and Jobs」でもその点が議論されました。特に企業側のニーズと仕事を探す若者の間のギャップの溝は大きいようです。企業は地元社員を雇用するのではなく、中東以外からのExpats採用してしまうという問題もあり、企業側が積極的に地元の人を雇用し教育をするという文化になっていないということです。また、一方で、労働者のモチベーションも問題視され意欲をどう向上させるかという点もハイライトされています。
ちなみにどの程度のJob Creationが必要なのか。なんと8500万人の雇用機会を将来に渡って作っていく必要があるということでした。なお、GDPは中東・北アフリカ16ヶ国合計で1,745十億ドルで日本と比較すると約1/3です。成長率は07年で約6%。
それにしても、このダボス会議中東分科会にいると、中東のニュースが極めてビビットに入ってきます。例えば、カダフィが死体で見つかったというニュースが世界を駆け巡りましたが、今日のセッションではそのリビアのNational Transitional CouncilのChairmanであるMahmound Jibril氏が来ていました。この方ですが、非常に頭の良い方です。話をされるキレが素晴らしい。他のパネルの方々の意見を取り入れつつ、ご自身の意見を提示され、全体に賛同の空気を創る、素晴らしいパネルでのパフォーマンスです。
初日に話を聞いた国政トップだけでも、カタール首相、パレスチナ機構首相、パキスタン大統領、ヨルダン国王がいます。その中でもアブドゥラ二世ヨルダン国王のスピーチは心を動かされるものでした。国王の人間味が伝わってくる話し方で、一言一言が重たく届いてきます。
ヨルダンという国はイスラエルの隣に位置し、また、石油資源を持たないという弱みもあり、中東という地域の中で非常に難しい立ち位置にあります。その国をWWⅡ以降、舵取りをしてきたのが王家の人々です。ある参加者はヨルダンについてThe most stable country in the most unstable regionと言っていました。そのような評価になるのも王家の存在が大きいと思います。ヨルダンではお店等に入ると多くのところで王家の写真や絵が飾られており、国の中で尊敬と敬意を集めていることを感じさせます。
国王のスピーチでは「今アラブや世界が抱える問題は様々です。その中でも、多くの若者がJob Marketに入ってくる中、いかにして若い世代を支援できるか、という問題は非常に大きな問題です。それを解決するためにはPrivate Sectorや政府が果たすべき役割が大きいですが、その中で、また、それ以上に重要なプレイヤーは皆さんです。」というメッセージで、ズシンと響くプレゼンでした。スピーチが終わると全員が自然と立ち上がり拍手です。世界でも有数のプレゼンテーターと言えるのではないでしょうか。
その後「Designing a Digital Arabia」に参加しました。Microsoft中東VP、CiscoエマージングマーケットシニアVP、パレスチナテレコムCEO、DUテレコム(UAE)CEO、そして、MIT Meidia LabのDirectorの伊藤氏です。テーマ自体にも興味があったのですが、日本人唯一のパネラーである伊藤さんがどのようにふるまわれるのか興味があり参加しました。
中東の中でまだインターネットビジネスのEco Systemが作りきれていないこと、それを実現するためには多くのプレイヤーが効果的にふるまう必要があること等が議論されています。このセッションはモデレーターを務めたYahooのVPのAhmedのさばきが非常にうまく、5人の個性的なパネラーの意見を引き出し、また会場の意見もガンガンに取り入れてディスカッションを回していました。その中で、伊藤氏は全体感を持った意見を常に持ちながらコメントされていてパネリストとしての貢献度が非常に高かったと言えます。
伊藤さんにご挨拶に上がると「グロービスですか。堀さんは良く知ってるよ。よろしくね。」とのリアクション。堀さんネットワークの広さを感じます。
セッションは複数同時進行で行われている時間帯もあり選ぶのがつらくなります。その後は「ソーシャルメディアの役割」というセッションに出ました。ここではやはりアラブの春におけるソーシャルメディアの役割が生々しく話されていました。エジプトの革命の中でTwitterやFacebookを使って革命を先導したチームは誰誰で。。。なんて感じです。
一方でTwitterやFacebookを使っているのは革命を起こした国民のうちのわずかな人たちで、それですべてを語ってはいけないという冷静な意見も。ツールと認識して適切に活用すべきということを言っています。ただ、パワーシフトが起きていることはたしかで、その活用の仕方次第だと。
隙があったので、どのように事業として儲けるのか、という点を質問をしましたが、中東のアントレプレナーもトライしながら模索しているということでした。ソーシャルメディアは生まれたばかりで使いこなすのは我々次第、使いながら進化させましょう!というパネラーの言葉にうなずく人が多かったです。
初日を終え感じることは、この場にいることは非常に歴史的な瞬間に立ち会っているのだという感覚を持っているということです。「アラブの春」のまさに当事者たちが集い、これからの国作り、社会作りが議論されています。歴史が動いている感覚を持てる場に来れたことは得難い経験です。
その後、夜は「Jordanian Party」です。Well Organizedされていて素晴らしい雰囲気でした。ヨルダン名物の水煙草を隣に座ったヨルダン人から勧められ吸うことに。普段たばこを吸わないので味は良くわかりませんでしたがいい気分にはなりました。
(Twitterに加筆・修正)
■ヨルダン入国からオープニングレセプション
今からヨルダンに向かいます。ダボス会議の中東分科会に参加するため。中東は学生の時にイスラエルに訪れて以来です。どのような旅になるか、楽しみです。
空港から死海の畔のホテルに到着。道中はインド人の教授と雑談しながら小一時間の道のりでした。空港からの道のりは警察の車に先導され、道には200mおきに軍隊の方が銃を構えて立っています。WEFという会合でテロ等が起こったら世界的なニュースになってしまうでしょうから、警戒度は最高レベルになっているのでしょうね。
死海を眺めることができるホテルに着くと、以前イスラエル旅行で死海の反対側に来た際の思い出がフラッシュバックのように頭に飛び込んできます。当時は同世代のイスラエル人は男女ともに徴兵されるという事実に驚いたことが印象的です。考えるとあれから18年。。速いものです。
夜に開催されたオープニングレセプションに参加してきました。やはり多様な人たちが集まっています。名刺を交換しながら話した人だけでも、ヨルダン、イスラエル、エジプト、デュバイ、イギリス、スイス、パキスタン、シンガポール、中国、タイでした。
ダボス会議の中東分科会で刺激的な時間を過ごしています。レセプションで様々な国の人と話をしていました。ふと振り返ると、そこに見たことのある顔が!Klaus Schwab氏が目の前に!ダボス会議の創設者です。奥様とも握手をさせていただいたが握手だけで終わってしまい少々残念でした。
レセプションは死海を望むテラスで行われています。とても気持ちの良い空気です。アンマンから飛行機が隣で、バスも一緒だった女性がいたので、声をかけるとINSEADで昔教えたことがある方でした。今はシンガポールで子供向けの学校を立ち上げているそうです。INSEAD話で盛り上がりました。
そこに中国人が入ってきて三人で話していると、なぜか仏教の話に。そこで、欲をなくすこと、全ては流れてること、世界は無であること、等の仏教についての考え方を議論することに。まさか死海の前で仏教話になるとは!不思議ですが、これも一つのご縁ですね。
その帰り道、エジプト人と意気投合して30分ぐらい話をしていました。エジプトでベンチャー支援をしているということで、グロービスの成り立ち等について興味を持ってくれます。
彼の弟は日本でもビジネスをしており、グロービスのフルタイムMBAに興味を持つかも、なんてことまで言ってました。さらに、エジプトの有望なVBのビジネスプランを送るから見てくれ、という話にまで広がりました。さて、どうなることか。こういうネットワークができるのもダボスならではですね。
(Twitterに加筆・修正)