今年のテーマは「The Great Breakthrough: New Solutions for Global Crisis」。経済危機の中で何ができるかという論点が中心でした。
様々なテーマが議論されたのですが、そこからの私なりのインサイトは以下の4つです。
1)欧州経済危機の出口はなかなか見えない
2)特に世界の中で中国の動きは注視が必要
3)ユニークな取り組みは世界も注目している
・脳科学
・ポジティブ心理学
4)希望はやはりHuman Capital
1)欧州経済危機の出口はなかなか見えない
ノーベル賞受賞者であるPaul Krugmanをはじめとした経済学者が多数登場し、世界経済の動向について様々なセッションで語られました。
特にEuro Crisisは多くのセッションで取り上げられていましたが、経済的な側面だけではなく、政治的な側面、歴史的な側面からも複雑に絡み合っていおり、構造的な問題についてたびたび言及され、解決の糸口について明確で歯切れの良い説明はほとんど聞かれませんでした。
論調の多くが、今の苦しい状態がこの先数年続くだろう、というもので希望的観測が聞かれない状態でした。ちょうどその夜にメルケル首相がギリシャを訪れてデモ隊がアテネ市内で投石をしているニュースが流れていました。
一つのヨーロッパと言いながらも、EUに加盟する国々は北と南では全く違う経済状態や文化を持っている国々の集合体です。一つのヨーロッパという理念に基づき、政治的な力を持ちながら統合を維持できるかということが鍵でしょう。
2)特に世界の中で中国の動きは注視が必要
世界経済の中でも多数のセッションで中国についても取り上げられています。
1978年以降の改革開放の政策以来、中国の経済成長は目覚ましいものの、今の中国に対しては各国の経済学者、そして、中国人の学者も警戒感を持って見ています。また、中国のそもそも中国当局の発表する経済指標が信用できない、という話も良く出ています。ただ、それだけではなく、GDPのうち50%に近い政府によるインフラ投資による成長は間違いなくバブルに繋がる、ということから危機感が共有されました。
一方でChina Chamber of International Commerceのプレゼンテーションでは、当たり前ですがその不安を垣間見るような話は基本なく、中国の世界的な重要な役割として世界経済を安定させること、そのために中国の国内需要を拡大させること、世界の通貨政策の変革に寄与すること、そして、後進国の成長への道筋としての中国の存在感を拡大させること等が言及されていました。
短期で見ても長期で見ても中国抜きには世界経済は語れない状態ですので、我々も注視する必要がありますね。
3)ユニークな取り組みは世界も注目している
・脳科学は世界を動かす?
「What Brain Science Tell Us about Marketing」というセッションがありました。他のセッションがあまり面白くなく、こちらに途中からの参加だったので全ては聞けなかったのですが、非常に面白かったです。その中でnVisoという会社の事例は非常にユニークでした。
・nVisoについて触れられている日本語の記事がありました:
カメラで顔の表情の筋肉を読み取り、その表情の動きから脳科学的にどのような感情を持っているのかを瞬時に解析し、マーケティング・プランに落とし込んでいくためのデータを出すということをサービスとして行っているそうです。
例えば、同じCMを見た人がどのような表情を創るのかということを秒単位で解析し、CMに惹きつけるためにどこを変えるべきかということを提言できるそうです。脳科学のマネジメント領域での応用は今後ますます増えていくという予感を感じました。
・ポジティブ心理学は世界を良くする?
もう一つ面白かったのはポジティブ心理学です。Shawn Achorという「Happiness Advantage」の著者がプレゼンテーターでしたが、まず何よりもプレゼンテーションがうまい。表情や声のトーンが素晴らしく、200名ほど入る会場の気持ちをガッとつかんでしまいました。
また内容としても、ハーバードまでいったにも関わらず幸せを感じていない人が多いことを引き合いに出しながら、成功を追い求めた結果として幸せになるのではなく、ポジティブな態度を持つ人に成功がもたらされるということを説明してくれました。
そのための鍵は
・3 Gratitude(3つの感謝を伝える)
・Doubler(過去24時間で有意義だった事を言語化する)
・Fun Fifteen(楽しい15分の時間を持つ)
・Meditation(2分でいいので瞑想する)
・Conscious Act of Kindness(親切な行為をする)
だそうです。
この行動を3週間するとシナプスの働きが変化し、ポジティブマインドが高まっていくそうです。
日本を出発する日に鎌倉の東慶寺で座禅を組んでいたので妙に4つめにうなずいてしまいました。
セッションが終わり、名刺交換をいたしまして日本に来たらぜひ話をしてほしい、とお願いをしておきました。
ちなみにShawnの映像はTEDでもありますのでご興味があれば見てみてください。
4)希望はやはりHuman Capital
今回の様々なプレゼンの中でも最も素晴らしいと感じたのは、NY大学教授のNouriel Roubiniによるプレゼンでした。
論理的にいかに今の経済危機が危機的かということを丁寧に解説してくれます。欧州危機、アメリカの経済状況、中国の問題、Emerging Marketの状況、地政学上のリスクと5つのポイントについて、全く資料を使わずに口頭だけで説明をしていくのですが、それがデータも含めて理路整然に語られ、そのプレゼン力とそれを支える頭脳に感嘆します。
ただ、話を聞けば聞くほど滅入ってくる内容でした。経済危機の出口は見えず、プレゼンを聞けばきくほど袋小路に追い詰められたような感覚に陥りました。
その中で、希望が持てたことは、以下のようなことを語ってくれたことでした。それは
「イスラエルやシンガポール、香港、韓国、日本のような資源がない国が経済的に成長できたのはなぜか。それはHuman Capitalに投資をしてきたからである。従い、危機の中でもLong Termで見ればHuman Capitalに投資することは正しい選択である。」
というメッセージでした。多くの悲観的な話が出る中での言葉だったので、非常に心に響いてきました。
私が所属するグロービスが行っている仕事はHuman Capitalをいかに高め覚醒さえていくか、ということです。その意味では、今の世界的な経済危機の中で、そこに立ち向かえるような人を一人でも増やしていくことが世界経済への貢献につながるということだと思います。
ソウルからの帰り道、韓国人の知り合いが言っていた言葉が思い出せれます。それは「私の兄はサムソンで働いているんだけど、自らの価値を高めるために本当に大変な努力をしているんですよ。」という言葉です。
私なりのインサイトのうち最後の項目はつまり「我々一人ひとりが自らのHuman Capitalを高めることができているか、さらには高まったHuman Capitalに基づき世界に貢献できているのか」ということが問われているのだと思います。
以上