昨今、企業経営において企業文化の重要性が高まっていることを強く感じている。私が仕事をさせていただいているクライアントでもいかに良き企業文化を強化し、悪しき企業文化を改善していくのか、ということに力を入れている。
環境変化等、企業を取り巻く外部環境の変化がますます激しくなる中で、その変化を乗り切るためには戦略をスピーディに変更し、機動的に組織を動かす必要があるが、その際に企業文化を進化させることができるか、という点が企業変革を進める上での難所である。
「組織は戦略に従う」と言ったのはチャンドラーであるが、では戦略を変え、組織を変えるというハードの変革をすれば企業が変わるかというとそんな簡単ではない。企業文化というソフトの部分が変わらねば本当の意味で日々の社員の行動が変わらないからである。
そんなことを考える題材としてとても面白い記事がダイヤモンド・ハーバード・ビジネスレビュー2月号にあった。それは「アマゾン・ウェイ~たゆまぬ挑戦を生む企業文化の秘密」という記事である。
この記事では、アマゾンがこれまで行ったイノベーションの数々についてのストーリー・エピソードが語れているのだが、その根底にあるのが「カスタマーフォーカス(お客様第一主義)」というジェフ・ベゾスが創業当初から徹底していた姿勢が紹介されている。
例えば、バーンズアンドノーブルがオンライン市場に参入した際に、アマゾンは25名の社員。バーンズアンドノーブルは3万人。勝ち目はないと周囲から言われたそうだが、その中で「彼らがどれだけたくさんのヒトモノカネを持っているか考えてもしょうがない。ライバル企業におびえるのではなくお客様に畏敬の念を持ちましょう。」ということを言って声を掛け合ったというエピソードが紹介されている。その結果としてより多くの顧客からの信任を獲得したのがアマゾンであった。
そのベゾスは企業文化について以下のように語る。
「当社の企業文化は意外なほどぶれないでいます。企業文化は放っておいても息づいていくようです。なぜならアマゾンの企業文化にふさわしい人材が次々と集まってきますし、合わない人は自分から去っていきますから。
幹部社員を新規採用すると、彼ら彼女らの多くは、一ヶ月もすると、アマゾンの顧客志向は想像を絶するほどの徹底振りですね。と驚きをあらわにします。ライバルばかりを意識するタイプの人が入ってくると、考えられる反応は二つに一つでしょう。
当社のお客様重視の姿勢に接して「すごい。目からうろこが落ちた」と感激するか、「やっていられない」とあきれるかのどちらかです。後者の場合、「企業文化」という言葉を使ったりしないまでも、何かが足りない(つまり自分にはこの会社は合わない(井上解釈))ように感じるのでしょうね。
こうして、アマゾンの企業文化はますます強化されていきます。ですからライバルが模倣しようとしてもまずできないでしょう。適切な使命を導き出す企業文化はとても大きな競争優位になります。(中略)つまり、企業文化を踏まえた上で戦略を考える必要があるのです。」
長い引用であったが、とても重要なメッセージである。戦略を考える前に企業の重視する企業文化を徹底浸透させることが先であるということをベゾスは言っているのである。そして、その企業文化に合わない人は自然と淘汰されていき、より強く凝集性の高い企業文化が形成されて、その会社独自の戦略が描かれていくというグッドサイクルが回っていく、ということを言っている。タイトルにも書いたが「戦略は企業文化に従う」ということである。
また、私もリーダーシップのセッションでよく言うのだが、「戦略は模倣可能だが企業文化は模倣困難」ということもベゾスは言っている。
企業経営を考える上で押えるべき視点をベゾスの話を通じて再認識することができた。