スタンフォード大学のJ・クルンボルツ教授が、数百人のビジネスマンのキャリアを分析しまとめた「プランド・ハップンスタンス・セオリー」(計画された偶然性理論)というキャリア理論が近年注目されている。これは、キャリアや人生は、自分ではどうしようもできないような予期せざることで80%は決まってしまい、自分の考えや意思でキャリアや人生を変えることができるのは20%の余地のみであるという考え方だ。
予期しない偶然の出来事によって大きく影響される以上、計画的にキャリアを作るというのは現実的ではない。しかし、偶発的な出来事によってキャリアや人生が形成されていくにしても、自分にとって好ましい出来事が起こるように常日頃から能動的な思考・行動パターンを取っている人にはより好ましい偶然が起こるし、そうでない人にはあまり起きない。
つまり自身にとって望ましいキャリアを切り拓こうと思ったら、偶然を味方につけ、キャリア形成にとって好ましい偶発的な出来事を自分から仕掛けていくべきである。自分自身を振り返っても、今のキャリアは明確に計画していたわけではない。自分の好奇心に従い柔軟性と楽観的思考を持ちチャレンジを重ねてきた過程で、様々な偶然の出会いがあり今日に至っている。
では、偶然性を自分の望む方向に必然化するような思考・行動スタイルとは一体どのようなものなのか。それは以下の5つに集約される。
-好奇心 (curiosity)
-こだわり (persistence)
-リスクを取る (risk taking)
-柔軟性 (flexibility)
-楽観主義 (optimism)
この理論は、ますます変化が激しくなるであろうこれからのビジネス環境において、より存在感が大きくなっていく考え方であろう。
先週、昭和の偉人が逝った。いかりや長介さんである。ドリフターズのリーダーとして視聴率50%を超える「全員集合」や俳優として「踊る大捜査線」での日本アカデミー賞受賞など、輝かしい活躍をされた。彼の著書「だめだこりゃ」にはご自分の半生を振り返り以下の
ようなことが述べられている。
「すべては成り行きだった。偶然だった。誰一人、ずば抜けた才能を持つメンバーはいなかった。確固たる目標すらなかった。私はテレビに出てお笑い界のトップに立ちたいと願ったこともなければ、映画に出て演技賞が欲しいと思ったこともない。修行の経験もない。せいぜい田舎でベースを弾いていたくらいで、まさか自分の腕が東京で通じるとは思っていなかった。だから、上京すら夢のまた夢のはずだった。
すべては偶然、偶然、偶然。偶然の力によって、私はひたすら流されてきただけだと、つくづく感じる。」
いかりやさんは「すべては偶然だった」と語る。しかしながら、著書を読むと様々な工夫や努力を重ねていたことがわかる。きっと、いや間違いなくその行動が大きな成功を呼び込んだのだろう。
前述の「計画された偶発性理論」に則り、いかりやさんの思考・行動スタイルを分析してみると以下のようになる。
好奇心: 女にもてたい、東京へのあこがれ、TVへの興味
こだわり: 先輩の芸は絶対に真似ない、徹底的な企画・リハ ーサル
リスクを取る: 寄せ集めのメンバーで舞台にチャレンジする
柔軟性: 個性的なメンバー、俳優への転進
楽観主義: 「何とかなる、やってやろう」の精神
好奇心からはじめたベーシストへの挑戦が契機になり、柔軟で楽観的な思考を持ちながらもこだわりを持って仕事を重ねていった。その結果、本人も想像していなかったような経験を積み、実績が生まれていった。いかりやさんの人生を考えると「計画された偶発性理論」の証明かのように思える。
いかりやさんのような偉人を一つの理論で切ることは本来は許されないが、凡人である自分が学びを得るために考えさせていただいた。ご冥福をお祈りしたい。合掌。
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