小室哲哉氏と中谷彰宏氏の対談をまとめた「プロデューサーは次を作る」という本は面白かった。この本は98年に書かれている。
当時の小室さんは安室奈美恵さんやTRFなどのアーティストに楽曲を提供するだけではなく、globeのように自らアーティストとして参加していた。ヒットする曲のほとんどは小室ファミリーということもあったことは皆さんご存知だろう。
この本ではそのヒットの裏側について小室さんが語っているのだが、それが垣間見えて面白かった。
例えば、今では大女優となった篠原涼子さんのデビューシングル「愛しさとせつなさと心強さと」の場合。
当時はまだまだ名前が知られていなかった篠原さんのプロデュースでは様々な工夫をしている。
たとえば、アニメとのタイアップが決まったら、ジャケットの表面は篠原さんの写真が、裏面にはそのタイアップしたアニメの写真を載せて、両者のファンを獲得しようと画策している。
また、当時はカラオケが流行っていたがカラオケの映像にアーティストが登場することはなかった。しかし、小室さんは若者にとってカラオケボックスはCDを購入するかどうかを考える場である、と捉えて篠原さんの映像を流すようにしている。
また、小室さん自身のネームバリューを使って篠原さんと一緒に宣伝活動に参加した。
これらの工夫が功を奏して200万枚を突破するセールスを記録している。先日の情熱大陸に登場した篠原さんは、この出来事を振り返り、「自分の力ではなかった。小室さんにプロデュースしてもらったからあれだけヒットした。事実その後小室さんなしで出したシングルは売れなかった。」と語っていた。まさに小室さんのプロデューサーの力を表すエピソードである。
その小室さんはプロデューサーは「見えている」ということが重要であると語る。
「郵便屋さんにしても、音楽プロデューサーにしても、いい仕事をするためには最初から最後まで”見えている”ことが大切です。一連のプロセスの中で、いま自分はどこにいるのか。手紙や曲はどう流れているのか。そのポジショニングがしっかりしていないと、流れは止まり、届くものが届かなくなってしまいます。」
「こんな詞がよいのではないか。こんな音が求められているのではないか。こんなファン層に売れるのではないか。こんなCMが作れるのではないか。・・・。モチーフから始まってエンドユーザーに届くまで、できる限り具体的にイメージします。」
「僕の場合、まずビジュアルが頭に浮かぶんです。自分が作った曲をアーティストがライブで歌っている様子、それを観客がどう受け入れてくれるかまで。そのイメージが固まってから実作業に入ります。」
そして、時代の変化についてこのように語っている。
「ビジネスの主役が作り手から買い手に移ってきていますからね。買い手の気持ちにシンクロした商品でなければ、いまや手にとってくれません。」
なるほどである。以前、このブログにも書いたが徐々に時代が「買い手主導型」に移ってきていることを小室さんも指摘している。
そして、明日を作るためには「明日をしっかりと見えるようになる」こと。これは先日あるベンチャー企業の幹部の方のコメントからも感じている。
学ぶことの多い本であった。明日を見えるよう、努力を重ねたい。
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