デザインカンパニーのIDEOのワークショップに参加してきました。これはIMPACT Japanという団体が主催しているGlobal Entrepreneurship Weekの一貫で実施されたものです。ワークショップには約20名ほど、デザイン会社の方、広告業の方、大学教授、学生等、幅広いバックグラウンドの方々が集まっていました。講師は、IDEO JapanでBrand Specialistとして活躍されている田仲さん。
以下に「IDEOデザインプロセス」、「ナレッジマネジメント」、「その他発見」という形で報告をまとめました。
▼IDEOデザインプロセス
お話をいただいたのは、デザインプロセスです。彼らには基本的にInspiration/Strategy/Ideationという3つのプロセスがあるそうです。実際のプロジェクトにおいてはそれぞれのフェーズを約1ヶ月ぐらいかけ、合計3ヶ月でプロジェクトを完遂させるそうです。
Inspirationのフェーズでは徹底的に観察することが重要。予見を持たずBehaviorを観る。そして、そこで面白い発見がないかを探索していくそうです。ちなみにBehaviorという言葉は“行動”と翻訳すると危険だと思っているという話がありました。英語のBehaviorの語感には行動だけではなく、行動を取った本人の動機、また、その行動を取った背景や環境も含めるが、行動観察と言ってしまうとActionだけを追いかけるような意味合いで捉えらるので危険だと言っていまいた。田仲さんは“意識と実態”と訳しているとのこと。
また、このフェーズでIDEOではクライアントも巻き込むそうです。例えば、顧客インタビューにもIDEOのデザイナー2人とクライアントの人1名で同行したりする。そして、そこで具体的な役割をお願いしてプロジェクトにガンガン巻き込み、クライアントとのチームビルディングをしていくそうです。
StrategyのフェーズはInspirationフェーズで見えてきた面白いことを様々な角度から組み合わせ、合成(Synthesis)していくプロセスだとのこと。ブレストを繰り返しながら発想を広げていきながら面白い意味合いを考えていくそうです。例えば、新しい手術室のデザインを考えるというプロジェクトでは、F1のピットの見学に行き、学習できることはないか、組み合わせると面白いことはないか、ということの発想を広げていくような営みを行ったりするそうです。そして、このStrategyフェーズでこういったものを創ったら新しい、面白いという意味合いを紡ぎ出すことを目指すそうです。
そして、Ideationのフェーズに入ります。ここでもブレインストーミングは行いますが、カギとなるのはプロトタイプを創るということです。「机に座って考える」よりも「手を動かしながら考える」ことの方が良いという考え方に則り、プロトタイピングが重視されています。例えば、エアニュージーランドのプロジェクトでは飛行機の機内を創ってしまい、そこから発想を広げるようなことをやっています。ちなみに、完成されたデザインは、エコノミークラスは席が空いていれば横に快適に寝れるようにし、ビジネスクラスは席の角度を自由に変更でき、横の人と向かい合ってミーティングができるようになっているそうです。
ただ、デザインプロセスの3つを丁寧に踏みましょう、というスタンスではなく、自由に行き来しながらアイディアを練り上げていくということでした。また、この3つのプロセスもIDEO全体で完全に共有化されているのではなく、他の人に聞けば似たような違うプロセスを語るぐらい幅が広いと言っていました。
▼IDEOのナレッジマネジメント
IDEOの組織に関していくつか教えていただきました。というのもIDEO自身は600名近いスタッフを抱えるまでになり、組織としてどのようにIDEAを出し続けらる組織であるかというのが非常に重要なテーマになっているそうです。ちなみに、グロービスでもIDEOのケースを使っていて90年代後半が舞台なのですが、ケースの記述によると300名となっています。従い、10年で2倍に増加しているのですね。
工夫をしている一つはナレッジマネジメント。面白ネタ共有が一つです。全社員が入っているメーリングリストがあり、そこに面白いことがあったらとにかくアップするという文化になっているそうです。例えば、日本に来たアメリカのスタッフが「キットカットって日本では「きっと勝つ」っていうコンセプトで受験生が買ったり、贈りあったりしてるんだって!」というような個人的な発見をアップします。日本人からすると当たり前のことでも“面白い”と感じた人がメーリングリストにアップして他の人が反応する、そんなことが繰り返されているそうです。
ただ、こういったフローの情報だけでは追いつけない場合もあるということで、写真もアップできる社内ブログ“the Tube”を自社開発したそうです。これは今で言うフェイスブックのような機能で非常に手軽に写真や動画、テキストを共有できるそうです。ここでストック情報を蓄積しているそうです。
また、社員のプロフィールやこれまでのプロジェクト実績が検索できるシステムもあり、困ったことがあるとそこで検索してエキスパートや経験者に聞くということが当たり前に行っているそうです。もちろん、国境の壁なく回しているそうです。
それ以外にも、ハロウィーン等のイベントでは、誰が最もユニークなかぼちゃを創れるかコンテスト等の業務外のイベントも行われていて、そういったところで楽しむことをしているそう。いかにクライアントワーク以外に投じる時間を増やすかというのが課題でもあると言っていました。そうでないと、アイディアが枯渇してしまうからということです。
・The Tubeが紹介されていたWebがありましたのでリンクを共有します。
▼その他発見
上記以外にも面白い学びがたくさんありました。
・プロダクトデザインとサービスデザインで違いがありますか?と質問したのですが、「違いはありません。なぜならどちらも経験をデザインすればよいからです。」という回答は目から鱗でした。
・また、スーパースターデザイナーがいるというスタイルではなく、多様なバックグラウンドのT型人材(一つの領域のエキスパート(例えば建築、グラフィック、コミュニケーション等など)であり、かつ、横串をバランスよく持つような人材)がチームワークを用いてデザインするスタイルをIDEOは取っているそうです。これは井上の想像ですが、中期的には組織的なアプローチの方が良い価値を実現できるのでは、と感じました。IDEO創業者はスターデザイナーですが、IDEOがあえて、そのスターに支えられたモデルを取らなかったことをもう少し突っ込んで聞きたかったです。
・IDEO.orgという取り組みを実施しているそうです。IDEOのイノベーション手法を世界の社会問題の解決に使えないかということで取り組んでいるプロジェクトです。IDEOのブランド価値を高めることにも寄与するでしょうし、スタッフのリテインにも効くのでしょうね。
・組織は“村”のような雰囲気だそうです。つまり、みんな良く知っていて仲が良いとのこと。採用はその村の仲間に入れていいような“いいやつ”かどうかを観るそうです。もちろん、スキルも見るそうですが。
報告は以上です!