先日、中部に本社を持つある会社(以下A社とする)でクリティカルシンキングの講師を務めた。実はこのA社は昨年に倒産し民事再生手続に入っている。理由はリースで販売している新製品の引き合いが多く、積極的に生産するも、1年後にリース契約が立て続けに切れ、資金が途絶えたためだそうだ。
このA社はプライベートエクイティファーム(以下B社)に買収され、現在はB社の管理下にある。このB社がヘッドハントしたのがCさんである。Cさんは、MBAを取得後コンサルティングファームで数年勤務し、その後、ハーバードのケースにもなる優良会社の本部長に最年少で登りつめた非常に優秀な方である。
その会社では順風満帆のはずだったが、Cさんはあえて給料も下がるA社に経営企画部長として飛び込んでいった。
入ってみると、社員のモチベーションは低く、もちろんスキルも高くない。それに加えて、外から来たCさんに大しては敵対心を持つ社員も多いという実情だったそうだ。その中で、正論を言うだけではなく、一緒に飲みに行き語り合うといった寝技も使う。「もう辞める」という社員と「一緒にやっていこうよ」と半日語り合ったりもする。このようなプロセスを通じて少しずつ仲間を増やしていったそうだ。
そして、彼自らが講師となって勉強会を2週間に一回行っていっている。ロジカルシンキングやマーケティングといった内容を行っているそうだ。最初は一体なんだ?と奇異に見られていたらしいが、回を重ねるごとに若手を中心に参加者が増えていっている。
今回はその勉強会の一環として、以前からの知り合いであった井上に声をかけてもらい、今回のクリティカルシンキングのセッションを実施するに至った。
実際に集まっている方々とセッションを行うと非常に前向きな雰囲気を感じる。これもCさんがこれまでのコミュニケーションを通じて、彼らの意識を少しずつポジティブに変えていったためであろうと感じた。
Cさんは言う。「まだまだ道半ばだと思う。けれども徐々にみんなの気持ちがポジティブになってきていると思う。僕はいつかこの会社を去る時が来る。でも、僕が去った後でもここにいる大半の人はこの会社に残り続ける。だとするならば、事業を再生させるだけではなく、この会社に愛着を持ち、誇りを持てる会社にしていってほしい。そのために、一人ひとりの意識と能力を高めるために、僕は今できる精一杯のことをやりたい。」
昨今、産業再生や企業再生という言葉が新聞誌上にも登場する機会が増えた。産業再生機構やプライベートエクイティファームの話を紙面で見ると「企業価値向上」や「選択と集中」という冷徹な言葉が踊る。
しかし、僕が目にしたA社でのCさんの取組みは非常にヒューマンでウェットな世界だった。
Cさんは言う。「プライベートエクイティファームからもオファーをもらった。でも、僕は現場に入りたかった。現場に入ってもがく経験が失敗しようが成功しようが僕の将来に役に立つと信じているから。」
Cさんに留まらず、経営についてのサイエンスを理解した上で、ウェットなコミュニケーションといったアートの部分もわかる人材が求められているのであろう。グロービスもアートとサイエンスを理解する人材を多く輩出するスクールでありたいと強く思った。また、自身もアートとサイエンスを理解したプロフェッショナルとして成長していきたいと強く思った。
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