ジェームス・C・アベグレン氏の「新・日本の経営」を読んだが、この本は日本のビジネスパーソンはぜひ読むべき書籍であるという感想を持った。
物事は歴史から学ぶことが多い、ということを良く聞くが、この書籍は戦後の日本の経営の歴史を俯瞰させてくれるという意味で価値がある。
アベグレン氏は、1955年に日本企業を分析し「日本の経営」という本を出した。その本の中で、「終身雇用」という言葉を生み出したことで知られている。アベグレン氏はマッキンゼーなどを経てBCGの設立に参画し、BCG日本支社初代支社長を務めた。現在は日本国籍も取得している。また、グロービス経営大学院の初代名誉学長でもある。
この「新・日本の経営」では、「日本の経営」が出版された時代から50年経ち、改めて、不況を超えた日本企業にはどのような強みがあるのかという点を分析している。
アベグレン氏は「日本の経営」の中で日本的経営の柱として以下の3つを指摘した。
1)企業と従業員の社会契約であり、会社で働く人たち全員の経済的な安全を確保するために全員が協力すること
2)年功制であり、賃金と昇進の決定にあたって年功が決定的要素になる
3)労働組合が企業内組合となっており、一つの企業の従業員が全員一つの組合に所属する仕組みである
50年経った今、この3つのうち、2)と3)については徐々に必然性を失いつつあると指摘しているが、1)の企業と従業員の社会契約=Life time commitmentについては引き続き、強く日本企業の中に残っていると述べている。
そして、アベグレン氏は、高齢化、人口減少等の変化を受けても、日本企業は以下のように力強い活力を失わないと指摘している。
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日本の労働市場はもっと柔軟になるが、企業にとって従業員が最重要な利害関係者であることは変わりない。いずれぶつかる労働力不足の問題は、労働集約型産業を海外に移し、女性と高齢者を労働力としてもっと活用し、自動化とロボットを大規模に活用し、解決される。労働組合は引き続き、経営に協力する企業内組合として存続する。企業内の賃金格差は比較的小さく、英米企業の搾取型の報酬とは対照的である。社員の研修・訓練は企業にとっては重要な投資であり、正社員の場合には今後も終身雇用が原則となる。
国内産業はサービス、ソフトウェア、金融が中心となり、標準化された製品は国内で生産するのではなく、輸入するようになり、日本は高付加価値の決定的な部品を供給する。輸出は減少するが、対外投資収入の増加が一因になって、経常収支は十分な黒字が維持される。企業経営では、成長ではなく、キャッシュフローと技術開発を重要視するようになる。日本企業は海外で生産・販売活動を大規模に行い、その圧倒的な部分はアジアになる。海外からの経営幹部と科学者は増えていくが、単純労働者を大量に受け入れることはない。
こうした動きで、日本は豊かだし、安定し、社会が健全な国になり、世界の研究開発の中心地になり、統合された東アジアの指導者になる。
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この本は、日本の経営を俯瞰的に眺めることができるだけではなく、勇気付けられる。それは、全体的に、日本人や日本企業に対してもっと自分達の良い点に眼を向けよ、というトーンで書かれており、読み終えると励まされたような感覚になるためである。
日本のビジネスパーソンには必読の書である。
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