野中郁次郎先生が書かれた「イノベーションの本質」を年末年始に読んでいた。社内で企画している読書会の課題図書として、この本を選んだためである。この本はサントリー、ホンダ、デンソー、スズキ、富士通、キヤノン、日清食品、スタジオジブリ、黒川温泉などという特徴がありイノベーションが成功しているプロジェクトを13個取り上げて、その要因は何かを掘り下げている。
私なりに企業においてイノベーションを起すためには以下の4つが重要であるということを学ぶこととなった。
■1)現地現物を常に意識する:
トヨタ自動車をはじめ中部圏の会社ではよく現地現物ということを言うわけであるが、イノベーションを起すプロジェクトの裏には現地現物ということが常にある、ということを認識した。
サントリー「DAKARA」においてもユーザーの身になって考えることを行っているし、ミツカン「におわなっとう」でもユーザーへの街頭インタビューを行っている。日清食品「具多」でも流行のラーメン店の味を確認するということを行っている。いずれも現場に入り込み、現場で五感を使って顧客の真のニーズを確認し、そこから商品のコンセプトを固めていっている。
■2)個のこだわりパワーを殺さない:
もう一つ重要な点はイノベーションを起す際には「個のパワー」が非常に重要であるという点である。13のプロジェクトのいずれにおいても、強い情熱を持った個人がいた。その一人の「強烈なこだわり」、商品やサービスへの強い思いがあるから、プロジェクトを進めていく上での困難をあきらめることなく乗り越えることができている。
そして、その個人が持つ情熱、思いがチームや組織に伝播していき、最後の最後まで機会を見つける空気がチームの中、組織の中に生まれていっている。
■3)二律背反するところを超える:
多くの事例においても、効率化を優先すべきか、より高い価値を実現すべきか、という二律背反する2つの選択肢を突きつけられている。そのような状況において安易にぢちらかを選択するのではなく、その両者を実現するために何をすべきか、何をできるか、という発想で考えている。
つまり二律背反するうちどちらを取るのか「or」ではなく、それを超えて「and」の発想を持つところに企業としてのイノベーションを起すことができるということである。
■4)議論ではなく対話から新しい創造を生み出す:
同書では、議論というのはA案とB案のどちらがよいのかを論理的に考え議論し結論を出していくことで、対話とはそれぞれの考えを共有してさらにより良いものはないかという発想をしながら意見交換すること、として述べられている。
紹介されている事例ではイノベーションを起すためには、議論よりも、対話をしながら仮説やアイディアをぶつけ合うことで、新しい発想が生み出されていっている。議論ではなく対話の重要性についてはピーター・センゲ氏の「最強組織の法則」でも述べられており重要な概念である。
上記以外にも多くの学びを得られる書籍である。ぜひ多くの方にお読みいただきたい書籍である。
白い巨頭さん
コメントありがとうございます。また、レスが遅れておりまして恐縮です。ハワイの方に挙式を挙げに行っておりまして数日PCに触れる機会がありませんでした。お許しを。
さて、白い巨頭さんの質問に答えようと思います。
>イノベーションって何だと思われますか?
>
>というのもここに出てくる事例の殆どが「カイゼンの
>積み重ね」であって、イノベーションとは区別される
>べき類のものかと思われるのです。
私の定義するイノベーションとは文字通り「革新」です。この中には、技術的革新もあれば、ビジネスモデル革新も含みます。すなわち、これまで取り組んできたことを新しい着想から変えていくことを意味しています。
おそらく、白い巨頭さんはクリステンセンの言う”破壊的イノベーション”を指し、それと本書「イノベーションの本質」で書かれている事例の違いについて指摘されているのだと思いますが、私の意味したのは、「イノベーションのジレンマ」の中で触れられている”持続的技術による変化”もイノベーションの中に含む定義で書いています。
>「顧客との相互対話」のことをイノベーションとは言
>わないと思いますし、その相互対話は経営学上こ
>こ15年くらいずっと言われていることじゃないか、と
>思います。
とありますが、MITにおいても、イノベーションの一類型として「ユーザーイノベーション」という概念が提唱されています。MIT教授エリック・フォン・ヒッペルが書いた「民主化するイノベーションの時代」ではユーザーによってメーカーよりも先行して革新が行われている事実を踏まえ、以下の顧客と協働することの価値を提言されています。
上記のような研究を読み解いても、ITが進んだ現代社会においては「顧客との相互対話」からイノベーション(広義の意味での)を起すという視点は極めて重要だと私は考えています。
ちなみに、私の会社でもクライアントをティーチャーと捉え、クライアントと協働しながら、革新を起す努力を重ねています。
そうそう、白い巨頭さん、大学院合格おめでとうございます。また、飲みにいきましょうね。
投稿情報: 井上陽介 | 2007-03-19 18:42
イノベーションって何だと思われますか?
というのもここに出てくる事例の殆どが「カイゼンの積み重ね」であって、イノベーションとは区別されるべき類のものかと思われるのです。
「顧客との相互対話」のことをイノベーションとは言わないと思いますし、その相互対話は経営学上ここ15年くらいずっと言われていることじゃないか、と思います。
投稿情報: 白い巨頭 | 2007-03-01 03:07