セブンイレブンジャパンを立ち上げ、今ではセブン&アイホールディングスCEOになられている鈴木敏文氏の本「朝令暮改の発想」を読んだのが非常に学ぶところが多い。
冒頭に氏はこのように書いている。「過去の経験をなぞる時代はいまや完全に終わりました。朝令暮改と言えば、以前はネガティブな意味で捉えられていました。一定の方向にむけて成長を続けているときは、前言を翻すと判断力や決断力のなさを非難されたものです。 それが今は、一度言ったことでも環境が変化し、通用しなくなれば、すぐに訂正して新しい方針を示さなければ、変化に取り残されてしまいます。朝令暮改を躊躇なくできることが優れたリーダーの条件の一つになっています。」
時代の流れを読んだ言葉である。この本を読み終えて、鈴木氏がもっとも伝えたかったのは以下の1点に集約されるのではないかと受け止めた。
■あるべき姿を追求し続けること、それこそに意味がある
鈴木氏は「大切なのは「相対的な競争」ではなく「絶対的な価値」を追求することである」と書いている。
絶対的な価値とは顧客により満足してもらいたいという自分たちの思いや価値観を大切にし「あるべき姿」をひたすら追求することによってもたらされる価値、と鈴木氏は言っている。それに対して、相対的な競争についつい目を奪われ、「あるべき姿」を忘れてしまうのが世の実態だと鈴木氏は述べる。
さらには、「未来の可能性を見出したとき、世の中にある様々な物事が改めて意味を持つようになり、過去の延長線上では見えなかった新しい光景が視野に入ってくる。その新しい光景の中で挑戦を始める。それがブレイクスルー思考である。」という。
鈴木氏の経験の中では、「セブンイレブンとの出会い」もそうであったと述べられている。アメリカでセブンイレブンをはじめて見たときも、単に素通りすることもできたが、もしも日本導入の可能性があるとしたら・・・と考えたことで、未来の可能性が見えてきたと言う。
顧客を基点にした”絶対価値の追求”、未来の可能性をもとに発想する”ブレイクスルー思考”、いずれも「あるべき姿を考え抜き、徹底的にこだわりぬくこと」に他ならない。
そして、鈴木氏はその姿勢が極めて大切だということを言わんとするために「挑み続ける生き方こそが人間にとっての大切な財産」であると最後に書いてくれている。何に挑むのかというと、もちろん「あるべき姿」に向けて挑むのである。
私の教えている「クリティカルシンキング」でも課題や問題を捉える際に、「まずあるべき姿を考えることが大切である」ということをよく言う。さらに言うと「自分や他社ばかりに目を奪われるのではなく、顧客等の価値の受け手を意識してあるべき姿を考えることが大切」ということを伝えている。
これは鈴木氏の考え方とも重なる発想であり、変化の時代の中では、忘れてはならない考え方なのだろう。