INSEADにいった話はこのブログでも書いてきたが先週はスイスIMDへ訪れる機会を得た。
昨年INSEADに行くと決める前にIMDも検討をしていたのだが、その検討の過程で興味深いプログラムを発見し、今回参加したHigh Performance Leadership(HPL)である。
HPLのサイトを見て何が面白そうと感じたのかというと、「develop your own leadership」という言葉。様々なLeadershipプログラムというものが世の中にあるが、普遍的なリーダー像を学ぶというプログラムは多い。一方でこのHPLでは”your own leadership”にこだわっており、それが心に引っかかったのだ。
このHPLは非常に人気があり、毎年4回開催されているそうだが60名の定員が常にいっぱい、今年も秋のクラスまで定員が既に埋まっているという人気講座。
今回の参加者は国籍としては20を超え、ヨーロッパ、北米、南米、アジア、中東から幅広い年代の人々が参加していた。
参加してみて感じたことはHPLの特徴は大きく3つある。以下に書いてみたい。
■コーチ陣、パワフルな外部スピーカー、そして、それを束ねるリードファカルティ(教授)のコラボレーション
HPLのプロセスを進めるにあたってコーチの役割が極めて重要である。全体でのセッションはもちろん毎日行われていくのだが、それだけではなく、小グループでのセッションが毎日3-5時間ぐらいある。そのグループでのセッションを仕切っていくのがコーチの役割である。
では、それ以外は何をやっているのか。まずはリードファカルティからのレクチャーが毎朝行われる。ここでは、リーダーシップのパターン、リーダーの感情マネジメント、チーム醸成のカギ等がレクチャーされる。
そして、このHPLを特徴付けるのが非常にユニークな外部スピーカーを集めていることである。
例えば、元FBIで交渉人(人質を取った銀行強盗等に交渉をする人)をやっていた人、脳科学のスペシャリスト、遭難をして両手両足を失った登山家、元俳優で現在は演劇プロデューサーでありプレゼンのプロ、元マッキンゼー+2万人規模の会社の元経営者等。
彼らそれぞれの視点から、個人として大切にしていること、リーダーとしての持つべきスタンス等について語っていく。
ともすると、このようなバラエティーに富む、そして、個性豊かなスピーカーが毎日現れると、それはそれで刺激的なのだが、何を我々が学んだのかということがポッカリ抜けてしまう、ということにもなりかねない。
そうならないのは、上記のリードファカルティの存在。毎回外部スピーカーのセッションが終わると、それが受講者にとってどういう意味があるのか、全体のセッションの中でどう位置づけられるのか、ということが解説されていくことで、全体が統合化されていくのだ。
従い、このリードファカルティには非常に幅広い知識・経験が求められるのだが、今回のファカルティーの方は非常にうまく進めていた。
■セルフリフレクション(振り返り)とグループコーチングによる自己理解促進
そして、もう一つの特徴は徹底したセルフリフレクション(Self Refrection)である。グロービスにおいても、このセルフリフレクション、すなわち自己の振り返りを重視していてるが、こちらでも徹底している。
プログラムの事前課題の一つは、自分のリーダーシップ経験(失敗及び成功をそれぞれ3つ)のストリーを書いてくること。それも、ビジネス経験に留まらず過去の人生すべてを振り返って書いて来い、という宿題である。さらにクラス中に個々人の「ライフストーリー」を書き、人生の節目節目でどのような出来事があったのか、そして、それが自分のリーダー行動にどのような影響を与えているのか、ということを振り返っていく。
そして、それらを7名プラスプロフェッショナルコーチ1名で編成される小グループで共有し、周囲からフィードバックを受けていく。以前、参加したINSEADのセッションではコーチングを重視はされていたが、その取り組みは小グループごとに任されていた。
HPLでは、コーチが全体構成をリードし、何をどの程度フィードバックしてほしいのか、ということへの具体的な指示がある。そして、それをテーマを変えながら何回も行っていくので、1週間という短い期間でも、互いの理解が進み、率直で、また、心温まるようなフィードバックを互いにできるような関係ができるようになっている仕掛けだ。
最終的には自己振り返り及び周囲からのフィードバックを踏まえて、自らのアクションプランというものを言語化し、プレゼン、そして、周囲からアドバイスをもらう、というセッションがある。
■エモーショナルな部分への”ゆさぶり”を通じての自己変革
もう一つ、大きな特徴の一つとし私が捉えたのは、エモーショナル(感情的)な部分をプログラムに徹底的に取り入れていることである。まず、リーダーシップ行動の中で感情というのが極めて大切であるということを、EQやチームワーク醸成における感情の意味、対立や変革における感情の変化等の理論的な背景をインタラクティブなレクチャーで気づかせていく。
その上で、受講者に個々の様々な出来事においての感情の変化について語らせていく。例えば、自分とは違った考えの上司との対立の話、事業を撤退しなければならなかった際の悲しみ等のビジネスにおける話も出てくるのだが、それに留まらず、家族の死をどう乗り越えてどのようにリーダーとして変化したか、というような極めて個人的な話も共有されていく。
特に上記のグループコーチングにおいては、かなりの比重で個人個人の感情面やそれぞれのルーツについて掘り下げていくようなコーチングがなされていく。
特に「ライフストーリー」の共有をしていくと、必然的にそのような傾向の話になっていった。
私のグループの某石油会社のマネジャーのオランダ人は、父親との関係がうまくいっていないことを話しているうちに嗚咽で言葉にならなくなってしまっていた。
私自身も父親の死やここ数年に亡くなった祖父、祖母の話を伝え、自分が今ここに存在している意味について深く考えさせられる機会となった。
この一週間を振り返ってみると、全体のクラスやグループワークで涙を流していたのが10人は下らない。
その感情と向き合い、乗り越えていくことがないと、新たなリーダーとしての成長はない。だからこそ、自らを見つめていくことが大切である、ということを繰り返し繰り返し伝えられていくのだ。
■まとめ
受講を終えて、これらの3つの特徴がこのHPLの大きな成功のカギだと考えている。
最後にリードファカルティであるジョージに、どのようなプログラムを目指しているのか、ということを聞いてみると「世界で最もユニークなリーダーシッププログラムを目指している」ということを言っていたことが印象深い。
私自身にとっても非常に濃密で、インパクトの大きな体験であった。