ASKA会議の最後のセッションのテーマは「変革」である。このセッションのパネラーは産業再生機構COOの冨山和彦氏、産業再生機構を経てカネボウ元社長の小城武彦氏、経営破綻後、東ハトに入り現在は同社取締役副社長の後藤英恒氏、そして、数多くのリゾートや旅館の再生を手がけている星野リゾート代表取締役社長の星野佳路氏の4名である。
いずれも「企業再生」という現場の最前線で経営の舵取りを担い、大鉈を振るってこられた方々なので言葉の端々の重みが違う。私が今回のセッションを聞き、大切と思うポイントは四つあった。
一つは「ビジョン形成」の重要性である。
小城さんは40代で産業再生機構からカネボウに社長として入っていった。40代と言えば、カネボウでは課長の年次。それにも関わらず社長に就任するということであるから、年齢が上の人は驚き、抵抗感を示す。
そのような中、小城さんはまず「企業理念」を見直すということから始めたそうである。もちろん、過去から伝えられてきたものがあるが、既に信じられていない状態であった。だからこそ、新しいものを全員で創るというプロセスを入れた。一方で小城さんとしては、そのプロセスでどのような社員がいて、どのような考えを持っているのかを把握する目的もあったということだ。
ビジョンを形成する過程を通じて意識改革を目指すとと共にトップとしての現状把握に務めている。
二つめは「やるべきことを絞り込む」ということである。
星野さんは抵抗には2種類があるという。一つは反対意見が表に現れる抵抗。もう一つが表には反対意見が現れず面従腹背状態の抵抗である。そして、これらのうち、後者の抵抗が経験上非常に危険であり避けなければならないとのこと。
そこで、星野さんは旅館やリゾートの再生に入る場合、「まずは多くの人の利害が一致するようなテーマに絞り込んで取り組む」と言う。例えば、顧客満足や会社の利益というような絶対に全員が否定しないようなテーマに取り組み、議論を重ねていくことで変革の必要性を社員に浸透していくそうである。
そして、三つめは「なぜなぜ」の重要さである。
後藤さんは破綻後の東ハトにユニゾンキャピタルから入った際には30代前半だったそうだ。東ハトは民事再生法の適用されていたので社員は自信をなくしてはいたもののやはり「この若造は一体なんなんだ」という気分が社内に漂っていたそうである。
その後藤さんは入社後には「なぜなぜボーヤ」と呼ばれるようになったそうである。過去からのやり方に対して「なぜそういうやり方でやっているんですか?」「なんでそれが正しいやり方っていえるんですか?」等など、質問を繰り返していったそうだ。
一方の小城さんがカネボウで創った経営理念の一文にも「なぜ、なぜ、なぜ。現場、現実、現物に質問しつづける。」という文章が盛り込まれている。
そして、最後は「人格・人間力」である。
小城さんはリーダーは人の心に触る勇気を持たなければならないと言う。後藤さんはやり切る強い気持ち。そして、星野さんはぶれない判断軸。社員への愛情と質素倹約がリーダーには欠かせないと言う。
冨山さんは合理と情理の正反合一をすることが経営であり、社員やその家族を路頭に迷わす可能性があるのが経営であり、そのリーダーたる人間は継続した鍛錬を自らに課さねばならないと言う。
いずれも頭がいいというような左脳的なものだけでもなく、また、人の気持ちがわかるという右脳的なものだけでもない。その両者を持ち合わせ、その両者を高いレベルで統合させるような人格や能力を持たなければならない。
「ビジョン」「やるべきことを絞る」「なぜなぜ」「人間力」、これらのキーワードを胸に自らに鍛錬を課していきたい。