~~~時は2010年。日本は不況は続き経済的には没落しつつある。国民は疲弊し周辺国家からの信頼も失いつつある。このような状況である日本に、自らを北朝鮮に対する反乱軍と名乗るテロリスト9名が潜入する。向かう先は福岡ドーム。観衆3万人が入り満員の福岡ドームを9人で占拠する。観衆3万人の日本人は抵抗することなく、固唾を飲んで見つめている。そして、後発隊の500名が福岡の街に到着する。
日本政府は機能不全に陥り、何も意思決定ができない。唯一できた意思決定は九州と本州への道を封鎖すること。日本政府も福岡の市民もなにも抵抗できない。その中で反乱軍を敵と認識し行動を始めたのは、社会からドロップアウトした少年を中心としたメンバーである。~~~
これは、村上龍氏の小説「半島を出よ」のあらすじの一部である。学生のころはずいぶん小説も読んだが、最近はあまり小説は読まなくなっている。振り返ると「半落ち」以来で1年半ぶりぐらいではないか。
「半島を出よ」は上下巻2冊からなる長編小説である。日本や北朝鮮の状況、そして、登場人物一人ひとりについて克明に描ききっている。読み始めたらとまらなくなってしまい、結局3日間で読んでしまった。そのため寝不足が続いてしまっていた。
村上氏はこの小説では、北朝鮮の過酷な環境の中で生き残ってきた反乱軍の人物像を通じて、日本人の生ぬるい環境で生きてきた「弱さ」や「ずるさ」を浮き彫りにしている。ただ、それでも日本人にも光があるということを村上氏は示している。自らを主張することを厭わない若手の女性アナウンサーや反乱軍に抵抗するドロップアウトした少年たちなどがそれだ。いずれも集団には寄らずに、もしくは、集団に寄る事ができずに生きてきた人物である。このような人物こそ、真に強い存在であるということを村上氏は言わんとしているのであろう。
日本人を、そして、自分自身を見つめるために、この小説は一読に値する。いい本を読んだ。村上氏に感謝。
コメント