「鬼塚喜八郎」という名前をご存知であろうか。
私にとっては非常になじみのあるお名前である。なぜかというと前職がスポーツ業界にいたからである。ただ、私の友人何人かに聞いても鬼塚さんというお名前はあまり知らなかった。
でも、「アシックス」という名前は皆さん聞いたことがあるであろう。日本を代表するスポーツ用品会社である。
鬼塚喜八郎さんはそのアシックスの創業者であり、会長であられた方である。アシックスは昔オニヅカタイガーというブランドでスポーツの靴を作っていた。そのオニヅカは喜八郎さんの苗字から来ていたのだ。
喜八郎さんは戦後、スポーツによる人々の健康・発展を実現するためにスポーツ靴の製造を志した。常にスポーツをする人の視点に立ち、製品を作る姿勢は今でも同社のDNAとして多くの社員に受け継がれており、競合他社にいた私自身が素晴らしい製品に手を伸ばしたこともある。
ナイキを創業したフィル・ナイトはアスリートに喜ばれる靴のコンセプトを練り、その製造を操業当初はオニヅカタイガーに依頼をしたという話がある。これも、喜八郎さんに率いられた社員の製品開発・生産力の高さがうかがい知れるエピソードである。
その鬼塚喜八郎さんが9月に89歳で逝去された。
アシックスのホームページでは「鬼塚喜八郎の精神は受け継がれている~ころんだら、おきればよい~」と題して、喜八郎さんの創業後の軌跡と、会長が毎年新入社員を前にして語ったという古代から近代へと引き継がれた「スポーツマン精神の五箇条」が紹介されている。
それは以下の五箇条である。
<第1条>スポーツマンは、常にルールを守り、仲間に対して不信な行動はしない
<第2条>スポーツマンは、礼儀を重んじ、フェアプレーの精神に徹し、いかなる相手 もあなどらず、たじろがず、威張らず、不正を憎み、正々堂々と尋常に勝負する
<第3条>スポーツマンは、絶えず自己のベストを尽くし、最後まで戦う
<第4条>スポーツマンは、チームの中の一員として時には犠牲的精神を発揮し、チー ムが最高の勝利を得るために闘わなければならない。そこに信頼する良き友を得る。
<第5条>スポーツマンは、常に健康に留意し、絶えず練習の体験を積み重ね、人間能 力の限界を拡大し、いかなる時でもタイミング良く全力を発揮する習慣を養うことが必要である
そして、喜八郎氏の遺志を継ぐかの様に、「この五箇条に現代に生きるすべての人の道標として新たな条項を加えたい」として以下を書き添えている。
<第6条>スポーツマンは、ころんだら、起きればよい。失敗しても成功するまでやればよい。
このスポーツマンというところを全てビジネスパーソンと入れ替えて読んでも、十二分に意義のある言葉となる。
このようなメッセージを紹介してくれた喜八郎氏、アシックスさんに感謝するとともに、喜八郎氏のご冥福をお祈りする。