ドラッカーさんが亡くなった。ドラッカーさんについて、このブログを読んでいる方の多くはご存知だろうから説明はいらないと思う。
(ドラッカーさん、訃報のニュースはこちら)
私自身、これまでも何冊もドラッカーさんの本を読んでいる。
「経営者の条件」「プロフェッショナルの条件」「ネクストソサエティ」「非営利組織の経営」「チェンジリーダーの条件」「現代の経営」。。。
振り返れば私もドラッカーさんの本を通じて多くの知恵をいただいた。その中で私がドラッカーさんの言葉で強く印象に残っているエピソードを共有したい。
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ある夜、19世紀の作曲家ヴェルディのオペラを聴いた。1893年に書いた最後のオペラ「ファルスタッフ」だった。
私は圧倒された。子供のころから音楽に親しんでいた。当時のウィーンは、音楽が盛んだった。特にオペラはたくさん聴いていた。だが、「ファルスタッフ」は初めてだった。あの夜の衝撃は、その後一度たりとも忘れたことがない。
私は調べた。信じがたい力強さで人生の喜びを歌いあげるあのオペラは、80歳の人の手によるものだった。18歳の私には、80歳という年齢は想像もできなかった。80歳の人など、ひとりも知らなかった。平均寿命が50歳そこそこだった70年前、80歳は珍しかった。そして私は、すでにワーグナーと肩を並べる身でありながら、しかも80歳という年齢で、なぜ並外れた難しいオペラをもう一曲書くという大変な仕事に取り組んだのかという問いに答えた彼の言葉を知った。
「完全を求めて、いつも失敗してきた。だから、もう一度挑戦する必要があった」。私はこの言葉を忘れたことがない。心に消すことのできない刻印となった。
ヴェルディ自身は、18歳のころ、すでに音楽家として名をあげていた。それにひきかえ、私は分かっていることは、綿製品の商品としての成功などありえないということだけだった。年の割には未熟な方でもあった。経験もなく、実績もなかった。何を得意として、何をすべきであるかを知ったのも、15年ほど経った30代初めのころだった。
だが私は、そのときそこで、一生の仕事が何になろうとも、ヴェルディのその言葉を道しるべにしようと決心した。そのとき、いつまでもあきらめずに、目標とビジョンをもって自分の道を歩き続けよう、失敗し続けるに違いなくとも完全を求めていこうと決心した。
・「プロフェッショナルの条件」より
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数年前にこの文章を読んだとき、私は心が震えた。私も何者でもなかったからだ。そして、今でも明確な目標やビジョンが描けているのか、と問わればNoである。しかしながら、ドラッカーさんがおっしゃったように、私も完全を求めていきたい、そう感じている。
ドラッカーさんは、この言葉の通り、完全を追求され多くのことを成し遂げられ、この世を去られた。しかし、ドラッカーさんの思いは途絶えることはない。きっと多くの弟子たちがその遺志を受け継いでいくことだろう。
私も改めてドラッカーさんの本を読み直したい。
合掌。