本日、グロービス名古屋オフィスにて「創造を挑み、変革を導く」と題して、グロービス代表堀義人によるセミナーが行われた。おかげさまで100名を超える方々にお集まりいただいた。
今回はその模様を以下にまとめてご紹介したい。
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■ハーバードビジネススクール(HBS)への留学
今から16年前に住友商事から社費留学でHBSに入学をした。入学した頃は留学を終えたらそのまま住友商事に残るつもりだった。 勉強は非常に大変だった。毎日ケースを予習し、議論を繰り返していく。日本人のうち英語の問題もあって4人に1人は落第してしまうという厳しい生存競争であった。
金曜日を終えると、近くのお店に繰り出し「なんのために僕らはこんな苦しいことをやるのか」「お前の夢はなんだ」ということを語り合ようになった。すると多くのメンバーは「自分で会社を興したい」と言うのだ。我々日本人は会社を興すなんて考えは持てていなかった。
日本の価値観では優秀な人は、官僚になるか大企業のサラリーマンになる。一方のアメリカは優秀な人ほどリスクをとって起業家になることを望んでいる。日本は安定性を重視してリスクを避けている。米国は有能な人間はリスクを避けるのではなく、リスクを取ることがよしとされているのだ。そのような価値観の違いに驚きを感じた。
HBSのクラスでは、「あなたたちが21世紀を引っ張っていくリーダーになるんだ、ということを聞かされ続けていく。すると気がつくと「自分がやらなければならない」と勘違いしてしまうのだ。
ハーバード時代の同期に現ローソン社長の新浪さん、現ダイエー社長の樋口さんがいた。1つ上の学年にはディー・エヌ・エーを創業した南場さん。1つ下にはBCG御立さん、2つ下には楽天の社長の三木谷さんがいた。彼らもそのような意識を植え付けられたと思う。
■ベンチャーへの興味
そのような中でベンチャー起業ということに興味がわいてきた。そこでベンチャーと名のつくクラスをほとんど受講した。クラスをいくつも取っていくとベンチャー起業の方法論がわかってきて、僕らでもできるのではないかと考えるようになっていく。
また、キャンパスには成功した起業家が呼ばれてスピーチを行う。例えばマイクロソフトのビルゲイツ。そこで話を聞くと、それほど人間としての違いを感じないのだ。違うとすると、ベンチャースピリット。
人の限界というのは自分自身が作ってしまう。多くの起業家と同じように、可能性を信じ、発想を青天井にしてみようと考えた。その上で、緻密な戦略を描いていこうと思った。
私が「HBSで何を一番学びましたか」と聞かれたら、迷いなく「可能性を信じるということを学んだ」と答える。
■グロービスの構想
そして、自分がベンチャー起業家になるということで構想をHBSのキャンパスの芝生に寝転がり考えた。日本にもHBSのようなビジネススクールができないかと考えた。HBSはIBMを立て直したルー・ガースナーなどの経営者を多数輩出している。教育方法もケースメソッドを使い、考える力を徹底的に鍛えられた。これまでの知識インプット型の学び以上に多くの気付きがあった。
考えてみると、私はたまたま留学できたが、日本には自分より優秀な人がたくさんいる。そのような人は会社はなかなか外部に出してくれず、留学するチャンスを得ることができない。ならば、日本で仕事をしながら通えるビジネススクールがあったら多くの人の役にたつのではないかと考えた。
そして、そのビジネススクールをゆくゆくは大学院化させ、アジアNo.1になっていこうと思った。
■グロービス創業から現在まで
日本に帰ってきた29才の男には何もない。まずは80万円のお金を友達から集めてマーケティングのクラスを開講した。パンフを作るお金はもちろんなかったので、チラシをコピーして配り、20名が集まってくれた。
東京で始めてみると、大阪から新幹線で通ってくる人が出てきた。そこで、創業1年後には大阪校を作った。また、研修でグロービスを使いたいという要望を受け研修部門を立ち上げ、教材を出版しようということでMBAシリーズができた。また、学ぶインフラを創るだけではなく、ベンチャーキャピタル(VC)を創り創業を促す活動をしようと考え、95年にはVCをスタートした。
当初はブランドも何もなかったので、満足度を徹底的に高めることを目指した。グロービスには学校機関としてはおそらく初めてだと思うが、不満があったらお金を返すという「サービス保証」という制度をやった。これは問題があった場合のアラームになっていて、もしそのような声が上がったらプログラムを見直すようにしている。
現在のグロービスは、何もないところから始まり、可能性を信じ、行動してきた結果である。ただし、目指すビジョンに向けてはまだまだである。今回、東京、大阪でGMSの大学院化を進めていくが、これはプロセスであって目的ではない。名古屋も行政の動きを見て大学院化を目指したい。GMSをアジアNo.1のビジネススクールにすることがその先にあるがこれも最終目標ではない。重要なことはGMSで学んだ受講生が新しいビジネスをおこしたり、企業を変革させることによって日本によきインパクトを及ぼすことだと思っている。
■経営者として今考えていること
経営をしていて心から思うのは経営者は最高人材育成責任者であるということだ。VCで6億円を投資して、それがゼロになるということを経験したり、3億円の投資が50億円になるということを経験をした。それらを振り返ってみると、会社の成長は組織の成長であるということだ。松下幸之助氏は会社は「人がすべて」と言ったが、まさにその通りだと思う。
では、ビジネスパーソンにどういう能力が求められるのか、そのようなことを徹底的に研究し今は3つの能力であると考えている。
一つは、ヒューマンスキル。人を引っ張り、巻き込んでいく力である。人間的魅力というモノもこのスキルに該当する。そして、もう一つがコンセプチュアルスキル。複雑な状況下をしっかりと分析し、今何を行わなければならないことを考えていく力である。端的に言えば考える力である。そして、もう一つがビジネスフレームワーク。私はよく経営を考える定石という言い方をするが、マーケティングや戦略、会計、ファイナンス、人的資源管理、組織行動などの分野に知識を理解している必要がある。
このような3つの能力は日本のこれまでの大学までの教育では学ぶことがほとんどできない。経営者に求められるこのような能力を伸ばすためのカリキュラムをグロービスでは提供していきたいと思っている。
■グロービス・マネジメント・スクールの理念
経営理念は3つある。一つ目は能力開発の場の提供。二つ目は人的ネットワークの構築の場の提供。そして、三つ目は志を高める場の提供である。
能力と人的ネットワークが蓄積されれば多くのことをできるが、それだけではまずい。やはり向かうべき方向が正しくなければならない。そのためには「志」を磨く必要がある。やりたいこと、自分が行うべきと思えることがわかっている人は強い。
よくGMSでは「創造と変革の志士」を輩出する、ということを言う。粉飾決算をするなんてのはだめ。倫理観が高い人を育成したい。そして、その方々が日本社会にポジティブな変革をもたらしていってもらいたいと思っている。